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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)13号 判決 1999年3月30日

大韓民国

京畿道 利川市 夫鉢邑 牙 美里山 136-1

原告

現代電子産業株式会社

代表者代表取締役

金榮煥

訴訟代理人弁護士

齋藤榮一

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

伊佐山建志

指定代理人

廣田米男

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成10年審判第3989号事件について平成10年12月2日にした審判請求書の却下の決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成7年1月4日に特許出願したが、平成9年12月16日に拒絶査定を受けたので、平成10年3月16日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、これを平成10年審判第3989号事件として審理した結果、平成10年7月14日に原告に対して手続補正指令書(同書面発送の日から30日以内に請求の理由を記載した書面を添付した手続補正書及び引紙88,000円を貼付した手数料補正書を提出すること)を原告に発送した。これに対して、原告は、指定期間内に審判請求理由補充書を提出したが、指定期間内に手数料補正書を提出しなかったので、特許庁は、同年12月2日に「本件審判の請求書を却下する。」との決定(以下「本件却下決定」という。)をし、同月21日にその謄本を原告に送達した。

2  決定の取消事由

(1)原告は、平成11年1月8日、被告に対して指定金額の印紙を貼付した手数料補正書を提出したから、本件却下決定は取り消されるべきである。

すなわち、特許法133条3項は、審判手続について補正を命ぜられた者が指定期間内に補正をしなかったときは、審判長は決定をもってその手続を却下することができる旨定めているところ、同条2項3号には手続について納付すべき手数料を納付しないときも同様である旨が規定されている。そして、同法178条1項には審判の請求書の却下の決定に対する訴えが規定されているが、同条項には手数料不納付を理由とする請求書却下決定を除外することは規定されていない。したがって、たとえ請求書却下決定がされるまでに手数料を納付しなくとも、同決定の取消訴訟の弁論終結時までに手数料を納付すれば審判請求は適法であると解さなければ、手数料不納付を理由とする請求書却下決定に対する取消訴訟の提起を認めている上記178条1項の規定が空文化するものというべきである。

(2)被告挙示の判決の見解は、変更されるべきである。

第3  被告の主張

原告の主張1は認めるが、2(決定の取消事由)は争う(ただし、原告が平成11年1月8日に手数料を納付したことは認める。)。本件却下決定の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。

すなわち、手続について納付すべき手数料を納付しないとして補正を命ぜられた者は、遅くとも請求書却下決定がされるまでに手数料を納付しなければならないのであって、請求書却下決定がされた後は、たとえ同決定の確定前に手数料を納付しても、有効な補正があったといえない(最高裁昭和50年7月4日第二小法廷判決・判例時報782号33頁参照)。したがって、原告の主張は失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び原告が平成11年1月8日に手数料を納付したことは、被告も認めるところである。

第2  原告は、平成11年1月8日に指定金額の印紙を貼付した手続補正書を提出したから、本件却下決定は取り消されるべきである旨主張する。

しかしながら、手続について納付すべき手数料を納付しないとして補正を命ぜられた者は、遅くとも請求書却下決定がされるまでにこれを補正すべきであって、請求書却下決定がされた後は、たとえ同決定の確定前に手数料を納付しても、有効な補正があったということはできないものと解するのが相当である(被告挙示の最高裁第二小法廷判決参照)。したがって、本件却下決定の結論は正当である。

この点について、原告は、たとえ請求書却下決定がされるまでに手数料を納付しなくとも、同決定の取消訴訟の弁論終結までに手数料を納付すれば審判請求は適法であると解さなければ、手数料不納付を理由とする請求書却下決定に対する取消訴訟の提起を認めている特許法178条1項の規定が空文化する旨主張する。しかしながら、例えば適法にされた手数料納付を看過してされた請求書却下決定に対しては、取消訴訟の提起が認められるのであるから、特許法178条1項の規定が空文化するとはいえず、原告の上記主張は失当である。

なお、原告は、上記判決の見解は変更されるべきであると主張するが、当裁判所もこの見解に立つものであって、上記判決の見解は変更すべきものとは解されない。

第3  よって、本件却下決定の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年3月2日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

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